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小さな線虫の脳活動と神経回路を三次元顕微鏡で丸ごとビッグデータに


小さな線虫の脳活動と神経回路を三次元顕微鏡で丸ごとビッグデータに
?計測データの共有で「オープン?サイエンス」にも貢献?

研究成果の概要

足球彩票理学研究科の木村研究室は、遺伝子操作ですべての神経細胞を色分けした線虫を用いて、脳活動を高速に三次元画像として撮影?測定し、脳活動と神経回路構造を結びつける先端的な顕微鏡と実験方法を確立しました?これにより、新たな匂い応答細胞の発見に加え、脳機能の原理解明につながる脳活動ビッグデータの国際的な共有にも貢献しました?これら2つの研究成果は、将来的に「人間の脳疾患の解明」や「新たな仕組みのAIの開発」などにつながることが期待されます。

研究のポイント

図1本研究で用いた顕微鏡システム

?全脳神経細胞活動計測と多色蛍光での細胞同定をおこなう、高速三次元顕微鏡システム(図1)を独自に開発?
?測定のための線虫株の改善や、サンプル個体の位置評価など複数の技術改良により、効率的なデータ取得を実現?
?線虫の「学習」や「判断」を引き起こす忌避匂い物質2-ノナノンを感知する神経細胞(AWCOFF)を新たに発見?
?線虫の全脳神経細胞活動のデータを共有する世界的プロジェクトに参加して、自動的な神経細胞識別率の向上に貢献?

背景

図2線虫

■ 小さな脳が語る「行動の仕組み」
私たちの行動は、脳の中で数千億個の神経細胞が組み合わさって構成するネットワーク(=神経回路)が複雑に活動することで実現しています。言い換えれば、神経細胞のネットワークが刺激を感知し、記憶と照合し、判断して運動へとつなげる役割を担っています。しかし、人間やマウスのような動物では脳が複雑で神経細胞の数も多いため(マウスでも数千万個、人間の脳は約1000億個)、その全体像を把握することは、現在の科学技術でも大きな課題となっています。
そこで登場するのが、線虫C. elegans(以下「線虫」)という生き物です(注1;図2)。線虫は「シンプルな脳が適切な行動をどう作るか」を探る理想的な実験動物とされています。脳全体の複雑さは人間と線虫では大きく異なりますが、神経細胞や遺伝子のレベルでは共通点も多いことから、線虫の研究が人間の脳疾患の解明につながることが期待されています?またシンプルな線虫の脳のはたらきとネットワークの関係を解明することが、新しいAIの開発にヒントを与える可能性も高いです?
今回の研究では、線虫の脳のはたらきを調べるために、「脳全体の神経細胞活動の高速な三次元撮影」と「全神経細胞の塗り分け」という先端的な技術を統合しました?
■ 先端的な研究技術1:脳全体の神経細胞活動の三次元撮影──「脳全体を一度に観る」
神経細胞の活動は電気的なものですが、遺伝子工学技術により、これを光の強さとして「観察」することが可能になっています。線虫は研究用に普及している顕微鏡で一つ一つの神経細胞をしっかり識別しながら脳全体を観察できるほどのサイズであるために(脳は約50μm?)、二次元である観察面の高さを素早く変化させることで脳全体を容易に三次元的に測定する「全脳神経細胞活動測定」が実現できます(本項目に関しては、過去のプレスリリース記事を御参照下さい;注2)?

■ 先端的な研究技術2:多色の地図としてすべての神経細胞を塗り分ける
しかし、線虫の全脳神経細胞活動の測定には、依然として大きな課題がありました。線虫の頭部には約150個の神経細胞が存在してそれぞれ性質が異なりますが、個体ごとに細胞の位置が微妙に異なるため、「どの神経細胞がどれに相当するか」を個体ごとに特定する(細胞同定:cell identification)ことが困難でした。2021年に開発されたNeuroPALという革新的な技術(注3)は、遺伝子工学技術によって脳の神経細胞を地図のように異なる色で識別できるようにして、この問題を解決しました (Yeminiら、2021)。このNeuroPALを全脳神経細胞活動計測と組み合わせることで、どの神経細胞がどのように活動しているか、さらにその活動がネットワーク上でどのようにつながっているかを、詳細に解明することが可能になりました。

研究の成果

図3線虫の頭部の像と全脳神経活動とNeuroPALの画像

■ 今回の研究成果1:匂い刺激に対する脳全体の活動を測定 (Endoら、2025)
木村研究室ではこれまでに、高速三次元画像として測定された線虫の全脳神経細胞活動を効率的に数値データ化するために、世界で初めて人工知能 (AI) 技術を応用して注目を集めました(注2)。今回の1つめの論文 (Endoら、2025) では、既存の高速三次元顕微鏡 (OSB-3D) に、NeuroPAL技術のための多色画像取得システム(注3)を統合した新しい顕微鏡システム (OSB-4D) を開発しました?さらに顕微鏡だけでなく、観察対象となる線虫株の改良や、観察時の体の向きを正しくセットするための手法の改良を重ねることで、従来よりも大幅に効率的なデータ取得が可能になりました(図3)?そしてこの顕微鏡システムを用いて、重要な匂い物質2-ノナノン(注4)に対する線虫の全脳神経細胞活動を初めて明らかにしました?特に今回は匂いを感知する細胞に注目したところ、新たな1種類の匂い応答細胞 (AWCOFF) が明らかになり、匂いを避けるための神経ネットワークの新たな推定が可能になりました。
■ 今回の研究成果2:脳活動ビッグデータを世界と共有 (Spragueら、2025)
脳?神経科学の究極の目標は、人間やさまざまな実験動物の脳における神経細胞活動と「脳のはたらき」の関係を明らかにすることですが、その実現には膨大なデータが必要です。そこで、世界中の研究室が連携し、脳活動データを国際的に標準化?共有して「ビッグデータ」として解析しようという活動が始まっています?(脳科学に限らずに、このような活動を「オープン?サイエンス」と呼びます?)
線虫研究においても、複数の国際共同研究チームが脳活動データの共有とビッグデータ解析に取り組んでいます。木村研究室は、外部刺激のない状態で線虫が自然に示す神経細胞活動(自発的神経活動)を脳全体で高精度に測定し、細胞同定に基づくネットワーク構造の情報とともに世界に公開しました。このデータを活用し、より効率的かつ精度の高い細胞同定アルゴリズムの開発が進み、その成果が国際共同研究論文(Spragueら、2025)として発表されました。

研究の意義と今後の展開や社会的意義など

■ まとめ:線虫の研究から、脳の理解の最前線へ
上に述べたように、複雑な脳を理解するためのシンプルな実験材料として、線虫は研究されています。木村研究室では、先端的な顕微鏡装置や解析技術を駆使することで、世界レベルの線虫の脳研究を行っています?具体的には木村研究室では、特定の神経細胞が「記憶」や「判断」に関与していること、およびそれらの機能に関わる遺伝子をこれまでに解明してきました(Ikejiriら、2024; Tanimotoら、2017)?さらに、線虫が「感情」に通ずる脳機能を持つ可能性も最近明らかにしました(Teeら、2023)?また、木村教授は過去に線虫の研究から人間にも共通するであろう「老化の仕組み」を明らかにしました(Kimuraら、1997)?今後は、線虫を対象として「記憶」「判断」「感情」に必要なネットワークとしての活動、そしてこれら脳活動の老化に伴う変化の仕組みなどを明らかにしていく予定です?

用語解説

注1:線虫C. elegans
?体長はわずか約1mm
?神経細胞の数は302個と少なく、世界で初めて個体の神経回路の全体像が1980年代に解明された。(他の動物種では2020年代になってからであり、線虫の神経回路全体像の解明は非常に先駆的?)
?体が透明で、脳内の神経活動を光で“見る”ことが可能(後述)
?神経細胞の中で機能するさまざまな遺伝子は、人間とも類似している場合が多い
?単純ながら、基本的な脳機能(感覚?記憶?学習?意思決定など)を備えている
線虫研究に関するサイト:https://plaza.umin.ac.jp/wormjp/

注2:高速な三次元顕微鏡観察
三次元ビデオを撮るためには、顕微鏡で観察する画像の焦点面を非常に狭く絞った上で、わずかな距離だけ(本研究では1ミリメートルの 1/1000 程度)正確かつ高速に移動させて撮影を繰り返す必要があります。顕微鏡による神経細胞活動の三次元観察の詳細に関しては、以前のプレスリリース記事(/media/20210330.pdf)をご覧下さい?

注3:NeuroPALと多色画像取得システム
NeuroPAL(Neuronal Polychromatic Atlas of Landmarks)は、40種類以上のプロモータを使って4種類の蛍光タンパク質(青?オレンジ色?赤?深赤)を線虫C. elegansの神経細胞で発現することで、神経細胞の位置と色から302個すべての神経細胞を一目で区別できるようにした画期的な遺伝子工学技術です。簡単に言えば、世界地図のようにそれぞれの神経細胞が4色に塗り分けられています?この技術により、個体ごとの微妙な位置の違いに左右されず、各神経細胞を正確に特定(細胞同定)できるようになりました。なお、神経活動はGFP(緑色蛍光タンパク質)を改変した蛍光タンパク質 (GCaMP) で計測しており、この緑色はNeuroPALの色と被らないように設計されているために、前述の全脳神経細胞活動計測とNeuroPALを併用することができます?(参考文献:Yemini ら、2021)
このNeuroPALの多色画像を取得するためには、4色の蛍光タンパク質を励起して選択的に蛍光を取得する装置が必要です?高速な三次元画像取得のための顕微鏡システム (OSB-3D) は研究室ですでに運用されていたので、本研究では多色蛍光のために4色のレーザー光を照射する装置やこれに対応した光学フィルターなどを導入しました?NeuroPALでは詳細なマニュアルが準備されていますが、それでも実験条件や取得した画像の処理には研究室独自の改善が必要でした?

注4:匂い物質2-ノナノン
さまざまな生物から放出される化学物質。線虫は2-ノナノンを避けることが知られていました?木村教授は過去の研究から、線虫が一度2-ノナノンに晒されるとその経験を記憶して、より遠くまで逃げるようになり、この現象には脳内の化学物質ドーパミンが関与していること (Kimuraら、2010)、また2-ノナノンはASHとAWBと呼ばれる2つの感覚神経細胞においてそれぞれ2-ノナノン濃度を微分的?積分的に関知され、忌避方向の選択に利用されていることなどを明らかにしました (Tanimotoら、2017)?すなわち、線虫が2-ノナノンを忌避する仕組みを研究することで、記憶や行動の選択(判断または意思決定)の原理が解明されると期待されています?

研究助成

本研究は、大阪大学「生体統御ネットワーク医学教育プログラム」(遠藤)、日本学術振興会(科研費 JP16H06545、20H05700、21H00448、21H02533、21H05299、21K19274、22KK0100)、JST CREST(JPMJCR23B2)、自然科学研究機構生命創成探究センター共同利用研究(22EXC206、23EXC204、24EXC201)、自然科学研究機構共同利用研究(01112002)、足球彩票特別研究奨励費(48、1912011、1921102、2121101)、豊秋奨学会、中谷財団、および理化学研究所革新知能統合研究センター(木村)による支援を受けました。

論文1情報

【論文1タイトル】
Enhanced Whole-Brain Calcium Imaging and Cell Identification in C. elegans Reveal AWCOFF Neuronal Responses to 2-Nonanone.

【著者】
遠藤雄人(1, 2)、鈴木涼月(1)、伊藤平(1)、伊藤玲奈(1) 、川口諒大(1)、木村幸太郎* (1, 2)
(*Corresponding author)

所属
(1) 足球彩票大学院理学研究科、(2) 大阪大学大学院理学研究科

【掲載学術誌】
学術誌名:Journal of Biosciences
DOI番号:10.1007/s12038-025-00518-2

論文2情報

【論文2タイトル】
Unifying Community Whole-Brain Imaging Datasets Enables Robust Neuron Identification and Reveals Determinants of Neuron Position in C. elegans.

【著者】
Daniel Y. Sprague(1), Kevin Rusch(2), Raymond L. Dunn(1), Jackson M. Borchardt(1), Steven Ban(1), Greg Bubnis(1), Grace C. Chiu(1), Chentao Wen(3), Ryoga Suzuki(4), Shivesh Chaudhary(5), Hyun Jee Lee(5), Zikai Yu(5), Benjamin Dichter(6), Ryan Ly(7), Shuichi Onami(3), Hang Lu(5), Koutarou D. Kimura(4), Eviatar Yemini(2), * and Saul Kato(1)* 
所属
(1) 米国カリフォルニア大学 サンフランシスコ校神経学科、(2) 米国マサチューセッツ大学 チャン医学研究科神経生物学科、(3) 理化学研究所 生命機能科学研究センター、(4) 足球彩票 大学院理学研究科、(5) 米国ジョージア工科大学 化学?生体分子工学科、(6) 米国CatalysisNeuro社、(7) ローレンス?バークレー国立研究所 サイエンティフィック?データ部門

(*Corresponding author)

【掲載学術誌】
学術誌名:Cell Reports Methods
DOI番号:10.1016/j.crmeth.2024.100964

参考文献

Endo, Yuto, Ryoga Suzuki, Taira Ito, Reina E Itoh, Ryota Kawaguchi, and Koutarou D Kimura. “Enhanced Whole-Brain Calcium Imaging and Cell Identification in C. Elegans Reveal AWCOFF Neuronal Responses to 2-Nonanone.” Journal of Biosciences 50, no. 3 (June 23, 2025): 52. https://doi.org/10.1007/s12038-025-00518-2.
Ikejiri, Yosuke, Yuki Tanimoto, Kosuke Fujita, Fumie Hiramatsu, Shuhei J. Yamazaki, Yuto Endo, Yasushi Iwatani, Koichi Fujimoto, and Koutarou D. Kimura. “Neural Mechanism of Experience-Dependent Sensory Gain Control in C. Elegans.” Neuroscience Research 191 (June 2023): 77–90.https://doi.org/10.1016/j.neures.2023.01.006.
Kimura, Koutarou D., Heidi A. Tissenbaum, Yanxia Liu, and Gary Ruvkun. “Daf-2 , an Insulin Receptor-Like Gene That Regulates Longevity and Diapause in Caenorhabditis Elegans.” Science 277, no. 5328 (August 15, 1997): 942–46. https://doi.org/10.1126/science.277.5328.942.
Sprague, Daniel Y., Kevin Rusch, Raymond L. Dunn, Jackson M. Borchardt, Steven Ban, Greg Bubnis, Grace C. Chiu, et al. “Unifying Community Whole-Brain Imaging Datasets Enables Robust Neuron Identification and Reveals Determinants of Neuron Position in C. Elegans.” Cell Reports Methods 5, no. 1 (January 2025): 100964. https://doi.org/10.1016/j.crmeth.2024.100964.
Tanimoto, Yuki, Akiko Yamazoe-Umemoto, Kosuke Fujita, Yuya Kawazoe, Yosuke Miyanishi, Shuhei J. Yamazaki, Xianfeng FEI, et al. “Calcium Dynamics Regulating the Timing of Decision-Making in C. Elegans.” eLife 6 (May 23, 2017): e21629. https://doi.org/10.7554/eLife.21629.
Tee, Ling Fei, Jared J Young, Keisuke Maruyama, Sota Kimura, Ryoga Suzuki, Yuto Endo, and Koutarou D Kimura. “Electric Shock Causes a Fleeing-like Persistent Behavioral Response in the Nematode Caenorhabditis Elegans.” Edited by A Barrios. GENETICS 225, no. 2 (October 4, 2023): iyad148. https://doi.org/10.1093/genetics/iyad148.
Wen, Chentao, Takuya Miura, Venkatakaushik Voleti, Kazushi Yamaguchi, Motosuke Tsutsumi, Kei Yamamoto, Kohei Otomo, et al. “3DeeCellTracker, a Deep Learning-Based Pipeline for Segmenting and Tracking Cells in 3D Time Lapse Images.” eLife 10 (March 30, 2021): e59187. https://doi.org/10.7554/eLife.59187.
Yemini, Eviatar, Albert Lin, Amin Nejatbakhsh, Erdem Varol, Ruoxi Sun, Gonzalo E. Mena, Aravinthan D. T. Samuel, Liam Paninski, Vivek Venkatachalam, and Oliver Hobert. “NeuroPAL: A Multicolor Atlas for Whole-Brain Neuronal Identification in C. Elegans.” Cell 184 (January 7, 2021): 272–88. https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.12.012.